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<概要>
 平成23年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故による大規模な原子力損害を受け、被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置として、「原子力損害賠償支援機構法」が平成23年8月に成立した。同法に基づき、原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ、原子力事業者による相互扶助の考えに基づき、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織として、平成23年9月に「原子力損害賠償支援機構」(当時。現「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(以下「機構」という。))が設立された。原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは、機構は、運営委員会の議決を経て、資金援助(資金の交付、株式の引受け、融資、社債の購入等)を行う。また、機構は、損害賠償の円滑な実施を支援するため、(1)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに、(2)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(3)賠償支払の代行を行うことができる。
 なお、原子力損害賠償支援機構は平成26年8月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構に改組され、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保を図ることが目的に加えられた。
<更新年月>
2016年09月   

<本文>
 平成23年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故による大規模な原子力損害を受け、被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置として、「原子力損害賠償支援機構法」(当時。現「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」)が平成23年8月に成立した。同法に基づき、原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ、原子力事業者による相互扶助の考えに基づき、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織(機構)として、平成23年9月に「原子力損害賠償支援機構」(当時。現「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(以下「機構」という。))が設立された。図1に原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の概要及び図2に原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援の仕組みについて示す。
 機構は、機構の業務に要する費用として、原子力事業者から負担金の収納を行い、損害賠償に備えるため積立てを行っている。機構には、第三者委員会的な組織として「運営委員会」が設置され、原子力事業者への資金援助に係る議決等、機構の業務運営に関する議決を行っている。
 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは、機構は、運営委員会の議決を経て、資金援助(資金の交付、株式の引受け、融資、社債の購入等)を行う。
 機構が原子力事業者に資金援助を行う際、政府の特別な支援が必要な場合、原子力事業者とともに「特別事業計画」を作成し、主務大臣の認定を求める。特別事業計画には、原子力損害賠償額の見通し、賠償の迅速かつ適切な実施のための方策、資金援助の内容及び額、経営の合理化の方策、賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請、経営責任の明確化のための方策等について記載する。
 機構は、計画の作成にあたり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに、原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認する。
 主務大臣の認定を受け、機構は、特別事業計画に基づく資金援助を実施するため、政府は機構に国債を交付し、機構は国債の償還を求め(現金化)、原子力事業者に対し必要な資金を交付する。
 機構から援助を受けた原子力事業者は、特別負担金を支払う。機構は、負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行う。ただし、政府は、負担金によって電気の安定供給等に支障を来し、または利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり、国民生活・国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合、機構に対して必要な資金の交付を行うことができる。
 機構は、損害賠償の円滑な実施を支援するため、(1)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに、(2)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(3)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払、平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律の定めるところにより、国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができる。
 なお、機構は平成26年8月に「原子力損害賠償支援機構法」の一部を改正する法律(「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」)の施行に伴い、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に改組され、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保を図ることが目的に加えられたことから、新たに廃炉等を実施するために必要な技術に関する研究開発、助言、指導及び勧告の業務も行っている。
<図/表>
図1 原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の概要
図1  原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の概要
図2 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援の仕組みについて
図2  原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援の仕組みについて

<関連タイトル>
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
原子力損害賠償支援機構法 (10-07-01-10)

<参考文献>
(1)内閣官房:「原子力損害賠償支援機構法の概要」平成23年8月、
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/pdf/songaibaisho_111003_01.pdf
(2)内閣府原子力委員会:「我が国の原子力損害賠償制度の概要」第1回原子力
損害賠償制度専門部会配布資料1−6、平成27年5月21日、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-6.pdf
(3)内閣府原子力委員会:「東京電力株式会社福島原子力発電所事故及び損害
賠償の概要」第2回原子力損害賠償制度専門部会配布資料2−4、平成27年7月
8日、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo02/siryo2-4.pdf
(4)原子力損害賠償・廃炉等支援機構:http://www.ndf.go.jp/soshiki/kikou_gaiyou.html
(5)文部科学省:原子力損害賠償制度、http://www.mext.go.jp/a_menu/genshi_baisho/
(6)資源エネルギー庁:「平成25年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー
白書2014)第1部、第2章の第1節「東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電
所事故への対応【第121−2−2】原子力損害賠償支援機構による賠償支援」、
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/1-2-1.html
(7)原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成二十三年八月十日法律第九十四
号)最終改正平成二六年五月二一日法律第四〇号):
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