<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」は、使用済燃料及び放射性廃棄物の管理の安全性を高い水準で世界的に確保することを目的として、締約国がとるべき、政策上、行政上等の義務を定めた条約である。条約は2001年6月に発効しており、日本は、2003年11月に条約に加入した。2006年2月現在、40か国とユーラトムが条約を締約している。条約の規定に基づき、3年に1回、検討会合が開催される。検討会合では、各締約国から提出された国別報告書を詳細に検討することにより、締約国の条約に基づく義務の履行状況をレビューするとともに、共通及び個別の安全課題について、建設的な意見交換を行っている。これまでに、検討会合は、2003年11月と2006年5月に、ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部において開催されている。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」とは
「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(The Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management)」(以下「廃棄物等安全条約」という。)は、原子炉の運転から発生する使用済燃料及び放射性物質の利用から発生する放射性廃棄物の管理の安全に関する国際約束であり、その目的は以下のとおりである。
(1)国内措置及び国際協力(適当な場合には、安全に関する技術協力を含む。)の拡充を通じ、使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全を高水準で世界的に達成し、かつ、維持すること。
(2)現在及び将来において電離放射線による有害な影響から個人、社会及び環境を保護するために、将来世代の必要及び願望を満たすことを阻害することなく、現在世代の必要及び願望を満たすことができるように、使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理のすべての段階において潜在的な危険に対する効果的な防護を確保すること。
(3)放射線による影響を伴う事故を防止すること、また、使用済燃料管理又は放射性廃棄物管理のいずれかの段階において事故が発生した場合にはその影響を緩和すること。
 廃棄物等安全条約では、上記目的を達成するため、レビュープロセスを採用しており、締約国に対し以下の義務を課している。
(1)廃棄物等安全条約の義務を履行していることを記した国別報告書を検討会合前に提出すること。
(2)書面による質問及び回答により、他の締約国の国別報告書の内容確認をすること。
(3)グループ討議及び全体会合からなる検討会合において国別報告書を説明し、質疑に対応すること。
 なお、廃棄物等安全条約の事務局は国際原子力機関(IAEA)が担当している。
2.廃棄物等安全条約の範囲
 廃棄物等安全条約の対象としている使用済み燃料と放射性廃棄物の範囲は、非常に広く、以下のものを含んでいる。
・医療及び産業分野での放射性同位元素の使用から発生する廃棄物(使用済の密封線源を含む。)
ウラン鉱石の採鉱及び処理から発生する廃棄物
原子力発電所の運転に伴う廃棄物と原子力発電所で使用されていた核燃料
・環境への放射性物質の放出
 また、締約国が対象であると申請すれば、以下のものも範囲に含めることができる。
・天然に存在する放射性物質を含んだ鉱物等の利用活動に伴って発生する廃棄物
・付随的に放射性物質を含む鉱石の探鉱から生じる廃棄物
・核エネルギーの軍事利用に伴う廃棄物
・未使用のウランやプルトニウムを回収するために再処理される使用済燃料
3.廃棄物等安全条約の経緯
 1994年9月に開催されたIAEA総会において、早期に、廃棄物等安全条約の検討を開始することが決議された。この決議を受けて、1995年7月から1997年3月にかけて、7回の専門部会が開催され、廃棄物等安全条約の原案が作成された。1997年9月29日には、署名のために開放され、2001年6月18日に発効条件を満足し、廃棄物等安全条約を発効した。なお、廃棄物等安全条約の発効条件は、25の批准書、受諾所又は承認書(運転中の原子力発電所を有する15の国の文書を含むことを有する)が寄託者に寄託されることである。
 2006年2月現在、表1に示す40カ国とユーラトムが条約を締約している。また、第2回検討会合から、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)がオブザーバーとして参加をしている。
4. 廃棄物等安全条約に参加する利点
 廃棄物等安全条約に参加する利点としては、使用済燃料及び放射性廃棄物に係る管理の安全性を改善するための知識を得られることである。また、検討会合への参加により自国の使用済燃料及び放射性廃棄物の管理体制が、国際的レベルでピアレビューを受け、管理プログラムの信頼性が客観的に評価され、国民に対する信頼性向上につながる可能性がある。さらには、ある国の放射性廃棄物管理に関する安全性のレベルが低い場合には、その国に対して改善要求を行い、他国への脅威や懸念の低下にも役立つ。
5.国別報告書
 各国は、表2に示した廃棄物等安全条約の4条から28条に規定された要件を満足していることを国別報告書において説明する必要がある。また、32条の規定により、国別報告書には、以下の事項についても記載することが要求されている。
(1)使用済燃料と放射性廃棄物の管理に関する政策と実施状況
(2)廃棄物の分類基準
(3)使用済燃料と放射性廃棄物の管理施設のリスト
(4)使用済燃料と放射性廃棄物の存在量
(5)廃止措置される原子力施設のリスト
 締約国が提出した国別報告書については、IAEAの廃棄物等安全条約に関するウェブサイト(http://www-ns.iaea.org/conventions/waste-jointconvention.htm)において公開されている。
6.検討会合
 検討会合の目的は、各締約国から提出された国別報告書を詳細に検討し、締約国の条約に基づく義務の履行状況をレビューすることにある。また、共通及び個別の使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全上の課題について、締約国がお互いの解決策から学びあい、建設的な意見交換を行い、世界全体での使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全向上に貢献することにある。
 廃棄物等安全条約は、検討会合の開催間隔は3年を越えないこととしており、これまでに2回の検討会合が開催されている。第1回会合は2003年11月3日から14日に、第2回会合は2006年5月14日から24日に、いずれも、ウィーンのIAEA本部において開催された。
 第2回検討会合の結論として、特に、第1回検討会合以降の進展が認められた分野としては、1)使用済燃料と放射性廃棄物管理の国の計画、2)利害関係者(ステークホルダー)と公衆の関与、3)使用済密封線源の管理の分野、があるとしている。一方、引き続き検討すべき課題としては、使用済燃料の長期管理、高レベル廃棄物の処分、歴史的廃棄物の管理、身元不明線源の回収、知識管理及び人材に関する国の政策の実行が挙げられた。また、締約国の財政的関与が責任範囲と整合することを確保する必要性も認識された。さらに、以下のような意見が検討会合の結果として集約されている。
(1)低レベル放射性廃棄物及び高レベル放射性廃棄物処分場の立地については、立地に苦慮している締約国も多いが、着実に進捗をしている国もある(例えば、低レベル放射性廃棄物については、韓国、高レベル放射性廃棄物については、フィンランド)。使用済燃料及び廃棄物管理の計画を実行するためには、公聴の重要性と公衆の理解の必要性が増大しているとの認識で一致した。
(2)クリアランスレベルの使用を成功させるための課題は、公衆の受容と明解な放射線防護概念である。
(3)締約国の廃止措置の戦略は、「即時廃止措置」(最終運転停止後0年から10年の間に開始)から長期にわたる安全貯蔵の後に行う「遅延廃止措置」に及んでいるが、施設についての知識と記録(通常運転、改造、事象等)の保持が、特に遅延廃止措置において、重要である。
(4)ほとんどの締約国は、密封線源の登録を行っているとともに、使用されなくなった大規模密封線源を供給者へ返還するようにしている。長寿命の使用されなくなった密封線源の処分は、解決すべき課題である。
 第3回検討会合は、2009年5月11日から22日に開催される予定となっている。
7.日本の取り組み
 日本は、1995年より、廃棄物等安全条約の批准のための検討を開始しており、2003年8月26日には、加入のための寄託を実施し、同年11月24日に正式に廃棄物等安全条約に加入した。加入の効力が発効するのは寄託後90日目ではあるが、規定に基づき、会合に参加した締約国の合意により、同年11月に開催された第1回検討会合には正式参加をしている。日本の国別報告書の作成及び検討会合の対応は、使用済燃料及び放射性廃棄物に関する規制監督官庁である経済産業省原子力安全・保安院及び文部科学省が中心となって実施しており、関連する機関(外務省、原子力安全委員会、独立行政法人原子力安全基盤機構等)も参画している。
<図/表>
表1 廃棄物等安全条約締約国
表1  廃棄物等安全条約締約国
表2 廃棄物等安全条約の構成
表2  廃棄物等安全条約の構成

<参考文献>
(1)Y. Kawakami and M. Okubo, Importance of the ‘Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management’, Proceedings of International Conference on the Safety of Radioactive Waste Disposal, (2005)
(2)SUMMARY REPORT −Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management Second Review Meeting of the Contracting Parties 15 to 24 May 2006, Vienna, Austria−
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ