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<概要>
 サマータイム制度の効果および問題点などを「地球環境と夏時間を考える国民会議」における検討結果に基づいて紹介した。主な内容は、労働への影響、ライフスタイルへの影響、省エネルギー効果および二酸化炭素排出量削減効果、コスト負担等である。サマータイムの導入により、エネルギーの節約ができる、二酸化炭素排出量の削減に寄与できる、余暇の拡大ができる、交通事故や犯罪の防止に役立つ、等のプラス面が期待できる。一方、子供などの睡眠不足、農漁業分野での労働加重、制度変更に伴う対応費用の増加等のマイナス面もある。なお、世界におけるサマータイム制度の実施状況についても触れた。
 内閣府は2001年7月、「地球温暖化防止とライフスタイルに関する世論調査」を実施、また、中央環境審議会地球環境部会「国内制度小委員会」は、国内制度の基本的な考え方の検討の中で、この制度を取り上げている。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.地球温暖化防止対策
 地球温暖化防止京都会議COP3)の議定書によると、日本は2010年の温室効果ガス排出量を1990年レベルのマイナス6%とすることを国際的に約束している。この合意目標の達成のためには先ずは省エネルギーの努力が不可欠であり、特に夏期における省エネルギーが一つの大きな課題になっている。資源エネルギー庁では、冷房用のエネルギー消費が増大する夏期に向けて省エネルギーの普及広報を行ってきているが、その一環として「地球環境と夏時間を考える国民会議(座長:茅 陽一:慶応義塾大学大学院教授)」を設けて、サマータイム(夏時間)の導入の意義について検討してきた。
 国民会議での検討の主な論点は、1)労働への影響、2)ライフスタイルへの影響、3)省エネルギー効果・地球温暖化防止効果、4)コスト負担、の四項目に集約される。論点は推進意見と懸念意見の二面からまとめられているが、各論点の意見は表1-1表1-2に示す通りである。
2.期待される効果
 省エネルギー・温室効果ガス削減効果についてみれば、効果は直接効果と間接効果とに大別できる。直接効果については、第一に、夕方の明るい時間が一時間長くなることに伴う照明需要の節約が挙げられ、家庭用、業務用(自動車教習所、ゴルフ練習場、ガソリンスタンド、公共用ナイター、プロ野球場、広告用ネオン照明、広告用看板照明、等)、自動車照明需要ともども原油換算で約75.1万klの省エネ効果がある。第二に、午前中の気温が低くなることによる冷房需要への影響があり、業務用冷房に対しては省エネとなる。しかし、家庭冷房では夕方の増エネが生じる。それでも併せて原油換算で7.3万klの省エネになる。以上から直接効果は原油換算で年間87万kl相当になり、約70万トンのCO2の排出削減が見込める。
 間接効果については、余暇活動の拡大に伴って年間約6400億円の消費拡大が見込まれ、約9900億円の生産増加がもたらされることになる。この生産誘発に伴う増エネは原油換算で39.1万klと見込まれている。さらにドライブ需要の拡大に伴う増エネ3.6万kl、在宅率低下に伴う省エネ効果5.9万klを差し引くと、間接効果は増エネ基調で推移し36.8万klとなる。直接、間接の両効果を合わせると、実質省エネ効果として50.0万klが期待できる。これは約40万トンのCO2排出削減効果と見込まれている(表2参照)。
 ライフスタイルに与える影響については、アウトドア活動や家族のふれあい、ボランティア活動の機会が増え、高齢者が地域社会へ貢献していく、犯罪や交通事故の減少が見込める等プラスの面が予想でき、さらに従来休日に行われていた活動が平日へシフトでき、一週間単位の生活パターンに変化が生じる一方、子供の部活動の過熱化、塾通いの過熱化等による睡眠不足等の懸念もある。しかし、人々の行動の選択肢に多様性がもたらされることは確実であろう。
3.国民の負担
 コスト負担については、ハードウエアの改修費に関連して、例えば時間帯別料金を選択している需要家の電力メータ(約290万戸)の変更費用、コインロッカー、タクシーメータ等の機器、交通信号機の自動切り換え、早朝の農薬散布作業時間の一時間短縮のために生じる有人ヘリコプターによる農薬散布が行えない水田への農薬散布用機材対応等が挙げられ、610億円程度の支出が生じる。ソフトウエアの改修費に関連して、政府、民間にある各種計算機用ソフトウエア、例えば料金等が時間に依存した契約になっている活動を司る計算ソフトの変更等多数挙げられ、これらにかかる費用は総額420億円程度と推計され、両者併せて1000億円程度のコスト負担を見込まねばならない。
 費用負担以外の対応については、切り換え日における労働時間制度の例外的取り扱い、例えば海員の労働時間延長、交通機関の運行ダイヤの調整、時刻を想定している契約における合意内容の解釈、例えば保険契約、漁業操業協定における時刻の取り扱い、農業・漁業分野における対応等が挙げられる。
4.サマータイム実施期間
 サマータイム実施期間については、1)省エネルギー・温室効果ガス削減効果の大きさ、2)国民生活に与える影響、3)国際的な制度への調和等を考慮することが必要であり、1)に関しては実施期間を4月−10月までとすると、省エネルギー効果は約42万kl、温室効果ガス削減効果は約36万トンである。2)に関しては日曜日の早朝(例えば午前2時)を選び、子供等への慣れを円滑にするために春休み中とする、等の意見もある。3)に関連しては、ヨーロッパ型に合わせる場合には3月最終日曜日から10月最終日曜日まで、アメリカ型に合わせる場合には4月の第一日曜日から10月の最終日曜日まで、の二案が考えられる。他に、国際航空路線の発着時刻の調整は国際航空分野における夏期刻の期間(3月最終日曜日−10月最終日曜日)を前提に調整が行われることになろう。
5.サマータイム制度の実施状況
 ここで日本において実施されたサマータイム制度および諸外国の状況を概説しておこう。日本では、戦後、石炭事情、電力不足の深刻化から、GHQの指示により1948年度(昭和23年5月1日)からサマータイム制度が導入された。しかし、サンフランシスコ条約が調印された1951年9月以降、早くもサマータイム制度を継続するかどうかの検討が行われ、1952年になってサマータイム制度が廃止されることになった。廃止に先駆けて行われた世論調査によると、廃止を希望する理由として「農(漁)村生活にぴったりしないし、つい労働過重になる」(26%)、「慣習を変更されることを好まない」(22%)、「健康上よくない(疲れてだるい)」(16%)が挙げられていた。なお、続行を希望する意見には「労働条件や民間企業に好影響(能率が上がる)」(25%)、「余暇を利用できる」(21%)、「健康上よい」(16%)があった。
 世界におけるサマータイム制度の実施状況についてみると、現在、70ヵ国以上が導入している。経済協力開発機構(OECD)加盟29ヵ国の中では日本、韓国、アイスランドを除く全ての国で実施されている。サマータイム実施国のリストを表3に示す。
 実施されている諸国のサマータイムの導入の背景・理由としては、エネルギーの節約ができる、余暇の拡大ができる、夕食後の一時間を家族とともにレジャーに充てられる、交通事故や犯罪の防止に役立つ、等であり、既述の国民会議の討議所見とほぼ似た内容の理由が示されている。
6.対策の見直し
a.内閣府の世論調査
 地球温暖化防止とサマータイム制度に対する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とすることを目的として、内閣府は全国20歳以上の者5000人を対象に、2001年6月28日〜7月8日にかけて、1)地球温暖化防止について、2)サマータイム制度について調査を行っている。その結果は、「地球温暖化防止とライフスタイルに関する世論調査」報告書としてまとめられている。本報告書から、サマータイム制度に関する調査結果の概要を以下に抜粋する。
 地球温暖化防止とライフスタイルに関する世論調査、2001年7月調査、内閣府大臣官房政府広報室
(1)サマータイム制度の周知度
 「サマータイム制度」についての説明を提示(提示カード参照)したうえで、「サマータイム(夏時間)制度」を知っているか聞いたところ、「知っている」とする者の割合が80.1%(「知っている」59.1%+「言葉だけは聞いたことがある」21.0%)、「知らない」と答えた者の割合が18.9%となっている。前回の調査結果と比較して見ると、「知っている」(71.O%→80.1%)とする者の割合が上昇し、「知らない」(28.2%→18.9%)と答えた者の割含が低下している。
(2)サマータイム制度が導入された場合生活面で考えられること
 サマータイム(夏時間)制度が導入されるとした場合、生活面でどのようなことが考えられるか聞いたところ、「始業時間が涼しく冷房用のエネルギーが節約できる」を挙げた者の割合が32.6%、「夕方明るいので照明時間を短くできる」を挙げた者の割合が31.7%、「エネルギーの節約によって地球温暖化防止になる」を挙げた者の割合が29.8%と高く、以下、「涼しい朝の時間に通勤・通学ができる」(27.3%)などの順となっている。
(3)サマータイム制度導入に対する賛否
 サマータイム(夏時間)制度を導入することについてどのように考えるか聞いたところ、「賛成」とする者の割合が50.9%(「賛成」17.2%+「どちらかといえば賛成」33.7%)、「反対」とする者の割合が28.8%(「どちらかといえば反対」19.5%+「反対」9.3%)となっている。なお、「わからない」と答えた者の割合が20.3%となっている。前回の調査結果と比較して見ると、「賛成」(54.0%→50.9%)とする者の割合が低下し、「反対」(25.2%→28.8%)とする者の割合が上昇している。
b.中央環境審議会地球環境部会「国内制度小委員会」での国内制度の基本的な考え方の検討
 地球温暖化に関連した国内制度は多種多様で、かつ多くの問題を孕むものが多い。これらの国内制度については、充分な時間をかけて見直しをすることが基本方針となっている。サマータイム制度もその1つである(図1参照)。
<図/表>
表1-1 サマータイムに対する意見(1/2)
表1-1  サマータイムに対する意見(1/2)
表1-2 サマータイムに対する意見(2/2)
表1-2  サマータイムに対する意見(2/2)
表2 サマータイム制度導入による省エネルギー効果試算
表2  サマータイム制度導入による省エネルギー効果試算
表3 世界のサマータイム実施国
表3  世界のサマータイム実施国
図1 今後の国内施策の導入ステップ
図1  今後の国内施策の導入ステップ

<参考文献>
(1)報道発表資料、「地球環境と夏時間を考える国民会議」運営事務局報道発表資料、「地球環境と夏時間を考える国民会議」運営事務局
(2)「地球環境と夏時間を考える国民会議」
(3)省エネルギー総覧編集委員会(編):省エネルギー総覧2004/2005、通産資料出版会(2003年12月)
(4)中央環境審議会地球環境部会国内制度小委員会(第11回)資料2-1、http://www.env.go.jp/council/06earth/y061-11/mat02-1.pdf
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