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<概要>
 高温ガス炉は、燃料をセラミックスで三重あるいは四重に被覆した直径60mmの被覆粒子燃料で、冷却材にヘリウムガスを、減速材黒鉛を使用した安全性の極めて高い原子炉である。ヘリウムは不活性ガスであるので酸化などの化学反応や一相のために軽水炉のような液体と気体の相変化が起こらず熱的特性が安定している。また、黒鉛は耐高温材料で強度が高くかつ熱容量が大きいため温度変化が緩慢である。さらに、原子炉は負の大きな反応度係数を持っているために大幅な出力変動を抑制することができる。このような高温ガス炉固有の安全性に加え、事故時の崩壊熱除去を受動的に行える静的安全機能を設計で対応することにより、安全性を一層高めている。発電用高温ガス炉としては球状燃料を用いるペブルベッド型原子炉として、HTR-500 とHTR-モジュール(HTR-M)がドイツで、VG-400がロシアで、PBMRが南アフリカ共和国で計画され、また、六角柱状燃料を用いるブロック型原子炉では、MHTGRが米国で、GT-MHRが米国、フランス、日本の企業とロシア原子力省により共同で計画された。また、日本では、日本原子力研究開発機構(略 原子力機構)がGTHTR300およびコジェネレーション(熱電併給)システムのGTHTR300Cの設計を実施している。
<更新年月>
2009年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.高温ガス炉の炉型と主要諸元
 新型発電用高温ガス炉の開発の基礎は1956年頃英国で発明された被覆燃料粒子に始まり、その後、経済協力開発機構(OECD)の共同プロジェクトであるドラゴン(Dragon)炉、米国の棒状燃料要素を使用した実験炉ピーチボトム(Peach Bottom)炉ならびに六角柱状のブロック型燃料を使用した原型炉フォートセントブレイン(Fort St.Vrain)(略 FSV)炉、ドイツの球状燃料を使用したいわゆるペブルベッド型実験炉AVRならびに原型炉THTR-300の設計・建設・運転および実証試験などに引き継がれている。
 これまで米国、ドイツ両国ともFSV炉、THTR-300炉に続く次期炉として比較的大型の商用炉を検討したことがあるが、新型発電用高温ガス炉としては、現在では、原子炉固有の安全性の活用や需要などの面から中小型炉の商用化が検討されており、ペブルベッド型ではHTR-500、HTR-モジュール(HTR-M)、PBMRなど、ブロック型ではMHTGR、GT-MHRが計画、検討された。
2.ペプルベッド型原子炉
2.1 HTR-500
(1)HTR-500は、基本的にTHTR-300と同一設計であって、圧力容器にPCRV(プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器)を採用している。また、約1,145,000個の直径約60mmの燃料球(燃料80%、黒鉛20%)を有し、その燃料球には直径0.5mmのSiC被覆層付きの低濃縮ウラン粒子約16,000個が含まれている。熱出力1390MW、電気出力550MWの原子力発電である。主要諸元と原子炉断面図を図1に示す。
(2)OTTOサイクル(*1)を採用し、運転中に3本の燃料取り出し管から使用済燃料球がキャスクへ取り出され10年間貯蔵される。
(3)蒸気発生器は6基設置されている。
(4)反応度制御には反射体部分、炉停止にはペブル燃料体の炉心の中に停止棒を挿入する。なお残留熱除去には2系統の補助冷却系を設置しており、原子炉安全設計の基本思想は従来の軽水炉と全く同じである。
(5)放射性物質の放出に対する障壁として、燃料要素、PCRV、原子炉格納建家がある。放射性物質放出の1次的障壁は燃料粒子の被覆層であり、減圧事故残留熱除去系が作動不能の場合でも、破損する温度に達する燃料は数%に過ぎない。減圧後のヘリウムガスの流速は遅いので、原子炉建家に放出する放射性物質の量は少なくなる。減圧事故時の炉心の冷却には、長期間を要するので原子炉建家は密閉し、放射能は排気フィルタで除去する。空気中のFP量は、原子炉建家内の沈着により減少する。
2.2 HTR-モジュール(HTR-M)
(1)ペブルベッドの炉心は直径が約3m、平均高さは約9.4mでヘリウムガスで冷却されており、約36万個の直径約60mmの燃料球を有する。熱出力200MW、電気出力76MWの原子力発電プラントである。主要諸元と原子炉断面図を図2に示す。
(2)炉心濃縮度は単一であるが、軸方向の出力密度をできるだけ均一にするために、同一燃料が炉心を何度か繰り返して通過するマルチサイクルを採用している。
(3)原子炉は蒸気発生器より高い位置に置かれている。これによって、冷却材喪失時に生じる1次系の自然循環が抑えられ、蒸気供給系の金属部材が許容温度を超えることを阻止している。
(4)原子炉の直径は、反射体領域のみに制御素子を重力落下して低温停止が行えるよう約3mとしてある。また、炉心出力密度はいかなる場合でも燃料温度が1600℃を超えないように3MW/m3と設定されている。
(5)燃料球1個あたりの重金属装荷量(ウラン量)は、水・蒸気侵入事故を想定し、それによる反応度増加を最小とするために約7grに抑えられている。ドイツおよび海外における原子力市場の需要を目指して中・小型炉で、発電あるいはプロセス蒸気併給を目標に開発している
2.3 VG-400
(1)圧力容器にはPCRVが採用され、濃縮度6.5%の約60mmの燃料球を約80万個炉心に装荷するOTTOサイクルである。熱出力1,060MWの一部より265MWの発電をする熱電併給原子力システムである。主要諸元と原子炉断面図を図3に示す。
(2)冷却系は4系統あり、系統毎に中間熱交換器と蒸気発生器が接続されている。4基の中間熱交換器から440MWtの熱を取り出し、中間ループのヘリウムガス温度を900℃まで加熱する。残りの620MWtの熱で蒸気を発生させ265MWeの発電を行なう。
(3)PCRVは直径6.5mの炉心を収納するキャビティ(空洞)を中心に設け、中間熱交換器と蒸気発生器のための周辺に8個の空洞を設けた直径30mの容器である。資金難で実現の見通しは立っていない。
2.4 PBMR
(1)炉心設計はドイツのHTR-Mの炉心設計をベースにしており、ペブルベッドの炉心でヘリウム冷却されている。主要諸元と原子炉の構成を図4に示す。
(2)燃料球の濃縮度は8%としており、約456,000個を炉心に装荷する。軸方向の出力密度をできるだけ均一とするために、同一燃料が炉心を10回程度繰り返して通過するマルチサイクルを採用している。
(3)炉心出力密度はいかなる場合でも燃料温度が1600℃を超えないように4.8MW/m3と設定されている。単基出力は熱出力400MWt(電気出力165MWe)と小さいが、原子炉出口温度が900℃と高い。
(4)動力変換容器は3つに分けらており、原子炉とクロスダクトにより接続されている。原子炉システムを小型化することにより建屋容積を小さくして建設費の削減をねらっている。
3.ブロック型原子炉
3.1 MHTGR
(1)炉心は67カラムから成る環状炉心領域と、その内側及び外側の可動反射体領域、および固定反射体領域で構成されている。環状炉心領域には6角柱状の燃料体が10段積み重ねられている。燃料体中には被覆燃料粒子と黒鉛粉を混合焼結した燃料棒が納められている。被覆燃料粒子としてはUCOをとするものThO2を核とするものとの2種類が使われている。Uの濃縮度は約20%である。主要諸元と原子炉断面図を図5に示す。
(2)環状炉心の採用により、1炉心当たり350MWtの熱出力が取り出せ、かつ想定事故時においても燃料体や鋼製の原子炉圧力容器の制限温度を超えることなく崩壊熱を伝導(熱伝達)、放射、対流の自然の原理により圧力容器から除去できる。4ユニットで1プラントを構成し、熱出力1,400MWtに対し、電気出力として550MWeを取り出すことができる。
(3)反応度制御および原子炉運転停止用のために、自重落下で挿入可能な制御棒が、内側反射体領域に6本、外側反射体領域に24本設けられている。また、後備停止用としてボロンボールを自重落下させるために燃料領域中に挿入チャンネルが設けられている。
(4)原子炉と蒸気発生器は伝熱管の頂部が炉心下部プレナムよりも下の位置にくるようにクロスダクトを介して横並び(サイド・バイ・サイド)に配置され、地下に設けたコンクリート製のクロージャ内に設置されている。クロージャは換気とフィルター機能を持つコンファインメント(閉じ込め)構造で、壁面に崩壊熱除去のための炉室冷却系が設けられている。
(5)概念設計終了後、許認可に関して規制当局による予備的な安全審査が行なわれ、安全性が確認された。しかしながら、社会情勢の変化から場所も含め建設着工の見通しは立っていない。
(6)米国・エネルギー省、ゼネラル・アトミックス(GA)社、およびガス冷却炉協会が中心となって、中小規模発電用実用炉として開発を進めたが、1995会計年度にMHTGRの開発が中止された。
3.2 GT-MHR
(1)炉心は102カラムから成る環状炉心領域と、その内側および外側の可動反射体領域、及び固定反射体領域で構成されている。環状炉心領域には6角柱状の燃料体が10段積み重ねられている。燃料体中には被覆燃料粒子と黒鉛粉を混合焼結した燃料棒が納められている。被覆燃料粒子としては核兵器解体プルトニウムPuO1.8を燃料として使用する。また、ウラン燃料も使用することができる。ウランの濃縮度は約20%である。基本仕様は上述のMHTGRと同じである(図5参照)。
(2)MHTGRの環状炉心の形状、寸法を改良することによって、単基出力を350MWtから600MWtまで増大できるとしており、単基出力の増大、ガスタービン採用によるシステム簡素化、発電効率向上により、天然ガスコンバインドサイクル発電プラントと経済的に競合できるとされている。想定事故時においても燃料体や鋼製の原子炉圧力容器の制限温度を超えることなく崩壊熱を伝導(熱伝達)、放射、対流の自然の原理により圧力容器から除去できる。
(3)高燃焼が可能な被覆燃料粒子の特長を活かし、核兵器解体プルトニウムを燃料とする場合には、原子炉での1回の燃焼により装荷した239Puの約90%を消滅させることができるとしている。また、低濃縮ウランを燃料とした場合には平均燃焼度約100GWd/tを達成できる炉心設計としている。
(4)反応度制御および原子炉運転停止用のために、自重落下で挿入可能な制御棒が、内側および外側反射体領域に設けられている。また、後備停止用としてボロンボールを自重落下させるために燃料領域中に挿入チャンネルが設けられている。
(5)原子炉システムは、図6に示すようにスリー・ベッセル(三重容器)構造をとり、動力変換容器から直接電気をとり出せるという極めて単純なシステムとなっている。また、原子炉は地下に設けたコンクリート製のクロージャ内に設置されている。クロージャは換気とフィルター機能を持つコンファインメント(密閉)構造で、壁面に崩壊熱除去のための炉室冷却系が設けられている。
(6)原子炉出口温度すなわちガスタービン入口ガス温度は約850℃であるが、高性能コンパクト熱交換器で熱回収を行う閉サイクル・ガスタービンシステムの採用により45%を超える発電効率が得られる。
3.3 GTHTR300
(1)炉心は90カラムから成る環状炉心領域と、その内側および外側の可動反射体領域、および固定反射体領域で構成されている。環状炉心領域には6角柱状の燃料体が8段積み重ねられている。燃料体中には被覆燃料粒子と黒鉛粉を混合焼結した燃料棒が納められている。被覆燃料粒子としてはUO2を核とするものが使われている。Uの濃縮度は約14%である。主要諸元と原子炉断面図を図7に示す。
(2)環状炉心の採用により、1炉心当たり600MWtの熱出力が取り出せ、かつ想定事故時においても燃料体や鋼製の原子炉圧力容器の制限温度を超えることなく崩壊熱を伝導、熱伝達、対流を通じて圧力容器から除去できる。
(3)定期点検、燃料交換は2年に1回で行えるように設計し、計画停止を考慮しても、稼働率90%以上を満足できる。また、高燃焼が可能な被覆燃料粒子の特長を活かし、平均燃焼度約120GWd/tを達成できる炉心設計となっている。
(4)反応度制御および原子炉運転停止用のために、自重落下で挿入可能な制御棒が、内側反射体領域に12対、外側反射体領域に18対設けられている。また、後備停止用としてボロンボールを自重落下させるために制御棒案内ブロック中に挿入チャンネルが設けられている。
(5)原子炉出口温度すなわちガスタービン入口ガス温度は約850℃であるが、高性能コンパクト熱交換器で熱回収を行う閉サイクル・ガスタービンシステムの採用により45%を超える発電効率が得られる。
(6)プラントは原子炉圧力容器、熱交換器容器、動力変換容器等から構成され二重管を介してつながっており、地下に設けた鋼板コンクリート製のクロージャ内に設置されている。クロージャは換気とフィルター機能を持つ二重の密閉構造で、内側の密閉構造が減圧事故時の耐圧バウンダリとなる。
(7)日本原子力研究開発機構(略 原子力機構)が中心となって進めているガスタービン発電炉GTHTR300については、安全評価、経済性評価を含む基本設計を2003年度末に完了し、電力会社、メーカ、大学等のチェックアンドレビューを受けた。その後の詳細設計を実施する段階において、国の予算、ユーザの関係より、原子力機構において計画を見直し、発電のみのGTHTR300から水素製造の熱源用などのコジェネレーション(熱電併給)原子炉システムのGTHTR300Cの概念設計を実施した。現在、カザフスタンが原子力機構の高温ガス炉に関心を示し、両者で覚書を交わすところまでに至った。そして、GTHTR300Cの設計をベースに、カザフスタン向けの小型原子炉HTR50Cの基本設計に取り組んでいる。
注記
(*1) OTTOサイクル(オットーサイクル); http://www.mterm-pro.com/machine-yougo/thermo-dynamics/otto-cycle.html(参照)
オットーサイクルとは、熱の授受が等積変化で、圧縮と膨張が可逆断熱変化で行われるサイクルであり、(1)断熱圧縮 (2)等積受熱 (3)断熱膨張 (4)等積放熱の4つのサイクルにより成る。
オットーサイクルでは、熱効率ηは次のようになる。
η=1−(1/εκ−1)
(ε:圧縮比 κ:比熱比。ε=V1/V2。V1は(1)時の体積、V2は(2)時の体積)
オットーサイクルはガソリン機関の基礎になっているサイクルである。
<図/表>
図1 HTR-500(ドイツ)の主要諸元と原子炉断面図
図1  HTR-500(ドイツ)の主要諸元と原子炉断面図
図2 HTR-M(ドイツ)の主要諸元と原子炉断面図
図2  HTR-M(ドイツ)の主要諸元と原子炉断面図
図3 VG-400(ロシア)の主要諸元と原子炉断面図
図3  VG-400(ロシア)の主要諸元と原子炉断面図
図4 PBMR設備(南アフリカ共和国)の主要諸元と構成
図4  PBMR設備(南アフリカ共和国)の主要諸元と構成
図5 MHTGR(米国)の主要諸元と原子炉断面図
図5  MHTGR(米国)の主要諸元と原子炉断面図
図6 GT-MHRの原子炉建屋内部の機器配置概念図
図6  GT-MHRの原子炉建屋内部の機器配置概念図
図7 GTHTR300(日本)の主要諸元と原子炉断面図
図7  GTHTR300(日本)の主要諸元と原子炉断面図

<関連タイトル>
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
高温ガス炉の発電炉としての適合性と将来性 (03-03-04-02)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の拡大 (03-03-05-01)
海外における高温ガス炉開発の経過と計画 (03-03-07-02)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:高温工学試験研究の現状(1990)
(2)武谷清昭:最近の高温ガス冷却炉と諸外国の対応(上)、原子力工業、Vol.35 No.1(1989)
(3)武谷清昭:最近の高温ガス冷却炉と諸外国の対応(下)、原子力工業、Vol.35 No.2(1989)
(4)A utility/user summary assessment of the modular high temperature gas-cooled reactor conceptual design:GCRA 87-011 Rev.1(1987)
(5)日本原子力研究所:高温工学試験研究の現状(1994)
(6)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成6年度版
(7)PBMR:PBMR PROJECT STATUS,
(8)A.Koster,et al.:PBMR design for the future,Nuclear Engineering and Design,p.222,p.231-245(2003)
(9)H.L Brey:The Evolution and Future Development of the High Temperature Gas Cooled Reactor,GENES/ANP 2003,Kyoto,Japan(2003.9)
(10)国富一彦:高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の設計研究、Vol.1 No.4 p.352-360(2002)
(11)原子力ハンドブック:(株)オーム社(2007年11月20日)、p.512
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